《(上)からの続き 》

2.ジオガイドでの河童伝説の活用提案
 

河童の話題はすでに一時のブームを過ぎたようですが、河童伝説は日本中どこにでもあり、とても親しみやすい話題と思います。例えば、利根川周辺のジオバスツアーの場合、港公園ルートを選び、親子河童ブロンズ像の近くで写真やビラを見せながら(場合によっては下車)、銚子河童伝説の概要と親子河童ブロンズ像の特徴、観賞ポイントなどを面白おかしく説明されてはいかがでしょうか? 少なくとも、乗客の退屈しのぎにはなると思います。この観点から以下に私見をまとめます。
 

(1)ジオ活動にも取り入れようとすると、大内氏ほか河童村関係者の了解・根回しが必要かと思いますが、広く深いジオガイドの充実は銚子発展のカギでもあり、一考の価値ありと思いました。
 

(2)母子河童ブロンズ像を含め、「銚子かっぱ村」の数々の河童関連芸術品を、資産家大内氏の個人的趣味コレクションとか私的財産自慢のための道具と見做し、全国河童愛好家(狭い顧客層)のためのモニュメントとして腐らせておくのは勿体ないです。根回しの面倒さ、ジオガイドの負担増という問題もありましょうが、前向きにご検討いただければ幸いです。
 

(3)たとえば、坂東太郎=利根川関連のジオガイド(余山貝塚、右岸の海食崖、香取の
海の海退、利根川東遷、銚子港の導流堤・防波堤建設等)の際、銚子河童伝説を挿
話として取り込んではどうでしょうか?
母子河童ブロンズ像や大内かっぱハウス周辺の河童石像などについて、面白おか

く説明すれば、銚子の多彩な文化を印象付けることができるのではないでしょう
か?「銚子の河童伝説はチョウシよくて面白い」と!
 

(4)「銚子かっぱ村」の祈念事項「人と河童が共存できる水環境の維持」ついては、
   
洪水時の大量ゴミの漂着やポイ捨てゴミ対策として、銚子ジオパーク推進市民の会
   
中心になって、毎月1回、海岸清掃活動を実施していることを、さらりとアピー
   
するチャンスもあるでしょう。

3.大新河岸の母子河童伝説(参考情報)
 

 銚子の母子河童伝説は『銚子の民話』(銚子市教育委員会編)にも母子河童が住んでいたことが記されていますが、銚子ポータルサイト「すきっちょくるっちょ」の『とっておき、銚子散歩Web版』にも、状況説明(源話提供者:大内綾子、採集・再話者:永澤謹吾)が面白く、解りやすく紹介されているので、原文のまま以下に引用させて頂きます。
 

 昔、荒野[現在の銚子市中央町]に大新河岸と呼ばれる船着場があった。ここはイワシの〆かす<シメカス>や米などを高瀬舟に積んで江戸まで運ぶ河岸としてたいそう賑わった。廻船問屋の蔵が棟をつらねて、その中にモリゴンという大きな問屋があった。

ある夜のこと、モリゴンの雨戸をトントンとたたく音がした。番頭が起き出して戸を開けようとすると、「モリゴンさん、今日おたくに泊まった客人が、何も悪いことをしないのに、何でカラカサなんかでたたいたんだ。そんなこと止してくらっせ。」という声がした。そして、ピタピタぬかるみをを歩くような足音が遠ざかっていった。番頭は、急いで後を追いかけて行ったが、姿は見えず、やがて川岸でポチャンという何かが水に飛び込むような音がした。翌朝、泊まった客人に聞いてみると、昨日の昼、河岸で子河童をふざけてかまったことがわかった。

やがてそのうわさが河岸中に広まった。河岸に働く人達は、「河童は船を水から守ってくれるという。もういじめるのはよそう。」と戒めあうようになった。それからというもの、水に溺れたり、難破船が出ることがばったりやんだ。雨降りの晩などに、通りをピタピタ誰かが歩くような音が聞こえると、「大新河童が見回っている。」と河岸の人々はうわさしあったという。
 

4.母子河童伝説の探訪で学んだこと
 

河童伝説は日本全国にあまた存在します。その多くは、子供のしつけや、河童社会に託
して、自己、人間社会、芸術などへの批判に活用されているように思います。このような
観点からこの度の河童伝説現場探訪から学んだ教訓を、思いつくまま、参考までに私見を
記します。

 

(1)村人たちが「今後河童の子供をいじめない」と宣言した後、銘盤【写真3】にある
通り、母子河童が水難事故から守ってくれていることは、河童=水神様と考えて、
謙虚に感謝すべきです。また、「子供をいじめると災難が起こるぞ」と河童から現
代社会へ向けて警告しているように思えます。
 

(2)他方、水難事故の減少(母子河童像建立のお陰)については、技術の進歩やインフ
ラ投資を実現させた先人たちの努力のお陰でもあることを決して忘れてはなりませ
ん。すなわち、利根川水運が衰退し、鉄道や道路交通等、物流・交通手段が発展し
近代化されたことに加え、逆水門の設置、銚子大橋やかもめ大橋の建設、銚子港関
連では導流堤や防波堤による利根川河口部の水難対策工事等の総合効果であろうと
考えています。
 

(3)利根川東遷後の利根川は坂東太郎とも呼ばれ、流域面積日本一、長さ第2位と誇り
うる規模になり、江戸との水運による交流が盛んになり、銚子が栄えました。その
繁栄の中で河童伝説が生まれました。だからこそ、銚子母子河童像を前にして、利
根川東遷の話や日本一の水揚げを誇る銚子漁港などについて観光客にアピールする
のは、大新河岸河童への恩返しでもありましょう。
 

(4)一方、利根川の水質は、利根川上流はもちろん、周辺の小河川からも生活排水、農
業用肥料、殺虫剤・除草剤等が流入して、
問題を起こします。これらを如何にセー
ブするかが重要です。河川の水質というジオの恩恵は、「人間のみならず、水陸両
方の動植物が共存できる環境づくりが大切だよ」と、河童が現代社会に警鐘を鳴ら
しているものと解されます。

 

(5)さらに、中国・韓国等から漂着するペットボトル、その他の人工ゴミ不法投棄など
   が、今や大きな社会問題になってきています。プラスチックの微小破片が魚の内臓
   に蓄積し、死滅や繁殖を阻害する恐れすらあります。さらに、こうしたゴミが川底
   に堆積すると、シジミなどの貝類および伊勢海老等の繁殖も阻害される恐れがあり
   ます。これらに対する警鐘は、銘盤【写真3】からは読み取れませんが、「銚子
   っぱ村」から現代社会に対して、警鐘を発しているように思われます。


大新河岸Ed
  【写真7大新河岸

5.結び
 

 以上、関係諸先輩方に対しては失礼な表現が多々あると思いますが、僭越ながら、
 私見を述べさせて頂きました。
 

 ① 利根川を舞台とする銚子河童伝説と、多くの魅力ある大内河童コレクションを、
    観光資源として活用できないか?

  ② そのためには、利根川関連のジオとも整合性のある解りやすい河童伝説ストー
    リーを組み立てられないか?現状の個々の活動と、連動させる手立てはないか?
 

 孔子は「過ちを改めざるをもって過ちとなす」と諭しています。大新河岸の河童が、
 「今からでも遅くない!新たな活動を起こすべきだ」と、筆者に警告しているように
  思いました。
 

 「銚子ジオパーク推進市民の会」会員の一人として、河童伝説を正しく理解した上
  で、坂東太郎・利根川のジオ的な価値を再認識し、より広く、楽しく、積極的に、
  銚子の魅力をPRして行きたいと思います。 

                                  以上 

   文責&画像提供 :  山川 純雄
  編集&ブログ登録 : 銚子ジオパーク推進市民の会』 HP&ブログ担当(伊藤 小糸)